子どもがはじめて海を見た日——しおりから始まった、ある家族の話
これは、ある家族の話です。
横浜に住む、共働き夫婦と、8歳の娘、5歳の息子。伊豆下田、2泊3日の夏休み。
その旅は、いつもの家族旅行とは少しだけ違っていました。準備の段階から、家族のかたちが変わり始めていたのです。
旅の準備が、いつもより楽だった夏
「ねぇ、ちょっと聞いて」
夕食のあとのリビング。妻はノートパソコンの画面を、夫に向けて見せた。
「今年の家族旅行、しおりを作ってみない?」
夫は箸を置いて、画面をのぞき込んだ。表示されていたのは、彼が見たこともないような、家族向けのしおりのテンプレートだった。
「これさ、AIに『家族で伊豆、5歳と8歳の子どもあり』って入れたら、行程まで作ってくれるんだって」
「へぇ……。それ、君が一人でやってきたやつ、全部?」
「全部じゃないけど、叩き台にはなる。あとは家族でカスタマイズする」
その夜、夫婦は子どもたちをリビングのテーブルに呼んだ。
「今年の旅行、みんなで作ろうと思って」
5歳の息子は、目を丸くした。
「ぼくも?」
「うん。何したい?」
「えーっと……海ではしごしたい」
8歳の娘が笑った。
「はしゃぐ、でしょ」
「うん。はしゃぐ」
しおりに、子どもの言葉がそのまま書き込まれた。誰も訂正しなかった。
8歳の娘は、夜の花火大会を予定に入れたがった。夫は、子どもの希望にひとつだけ、自分の希望を足した。「朝の散歩、海岸線」。妻は、その日のうちに行程をしおりに反映させた。
旅の準備が、その夜のうちに終わった。妻は、いつもなら週末をまるまる使う作業が、家族で過ごす2時間で終わったことに、少し驚いていた。
出発の朝、子どもがしおりを手にした瞬間
出発の日、4人は車の前に並んだ。妻が、印刷したしおりを4部、家族に1部ずつ渡した。
8歳の娘は、表紙を開いてページをめくった。
「あ、海行くんだ!」
「知ってたでしょ」
「うん、でもこうやって書いてあると、なんか本物っぽい」
5歳の息子は、自分の手のなかのしおりを、両手で支えるように持っていた。表紙には、彼が前の夜に描いた、波と太陽の絵が印刷されていた。
「これ、ぼくの?」
「うん」
「ぼくが描いたやつ?」
「うん」
息子は、しおりを胸に抱えて、車に乗り込んだ。
運転席に座った夫が、ハンドルを握りながら、妻に小声で言った。
「俺もしおり持ってるの、なんか嬉しいな」
妻は、振り返って後部座席を見た。8歳の娘は、しおりの行程表を読んでいる。5歳の息子は、まだ表紙の絵を見ている。
——私だけが知ってる旅じゃなくて、家族みんなの旅になった気がする。
そう、思った。
「うわぁ……」——海を見た日
伊豆下田、白浜海岸。車を駐車場に停めて、ドアを開けたのは、5歳の息子だった。
砂浜への入り口で、彼は立ち止まった。
振り返らなかった。父にも、母にも、姉にも。
ただ、海を見ていた。
妻が、声をかけようとして、口を閉じた。
夫は、車のドアにもたれて、息子の背中を見ていた。小さく、つぶやいた。
「あの背中、覚えとこう」
8歳の娘が、弟の隣にそっと立った。何も言わずに、肩を組んだ。
5歳の息子の口から、小さく、聞こえるか聞こえないかの声で——
「うわぁ……」
夫が、スマホを取り出して、シャッターを切ろうとした。
その手が、止まった。
「いや、この瞬間は、写真より、心に残ったほうがいい」
カメラはおろした。代わりに、彼は息子の背中を、ただ見ていた。
10秒ほど経って、5歳の息子は、突然走り出した。砂浜を、海に向かって。
「待って!」と妻が叫び、
「靴を脱げ!」と夫が叫び、
「お兄ちゃん、待ってよー!」と娘が追いかける。
夏の音が、白浜海岸に響いた。
旅の途中、しおりが家族をつなげた小さな瞬間
翌日の朝、ホテルから次の目的地への車中で、5歳の息子がしおりを開いた。
「今日のお楽しみ、なに?」
しおりの「お楽しみページ」には、旅ビンゴが書かれていた。「カモメを見つける」「アイスを食べる」「海岸でシーグラスを拾う」——
「カモメは昨日見たから○」
「アイス、ホテルで食べたから○」
「シーグラスは……これから?」
8歳の娘が、しおりの行程表を見て言った。
「今日は何時に次のホテル?」
夫が答える前に、娘は自分でページをめくった。
「あ、5時か。じゃあ、シーグラス拾う時間ある」
妻が、運転席の夫の横顔を見て、思った。
——いつもなら、全部私が答えてた。「今日どこ?」「次なに?」「ご飯何時?」——子どもたちの質問は、いつも私に向かっていた。
それが、今日は、しおりに向かっていた。
「しおりが、家族の共通言語になったんだな」
夫が、信号待ちで、ぽつりと言った。
帰宅後、しおりに写真が加わった夜
旅から戻ったその日の夜。家族はリビングのテーブルに集まった。
スマホで撮った写真が、何百枚もある。そのなかから、しおりの「振り返りページ」に貼る写真を、家族で選んだ。
5歳の息子は、迷わず1枚を指した。
「これ、ぼくの!」
海で笑っている、自分の写真だった。
8歳の娘は、4人で撮った集合写真を選んだ。
「これがいい。全員いるから」
紙に印刷して、しおりに貼った。糊で、ゆっくりと、丁寧に。
家族の手から、しおりが、完成品になった。
スマホの中には、もう一冊、デジタルのフォトブックも自動で組まれていた。けれど、家族の手元に最後に残ったのは、紙のしおりだった。子どもたちが、それを大切そうに持って、それぞれの部屋に持ち帰った。
その夜、夫が妻に言った。
「来年も、こうやって、続けたいな」
妻は、うなずいた。
1年後、もう一度しおりを開いたとき
翌年の夏休み前のこと。
6歳になった息子が、リビングのテーブルに、去年のしおりを置いた。
「ねぇ、今年も海行こうよ」
「去年は楽しかった?」
「うん。すごく楽しかった」
8歳になった娘も、隣に座って、しおりを開いた。
「あ、去年のシーグラス、まだ持ってる」
「私も、お楽しみページ全部○つけたよ、覚えてる」
夫婦は、子どもたちが去年のしおりを話題にしている横で、目を合わせた。
「物として残ると、ちゃんと、思い出になるんだな」
「うん」
その日の夜、新しいしおりの準備が始まった。今年は、息子が「ぼくの絵、また表紙にしていい?」と聞いた。
「もちろん」
しおりは、毎年、家族と一緒に育っていく。
あとがき——もし、あなたが今年の夏に
物語は、ここまでです。
家族旅行の思い出を残すのは、写真だけじゃありません。しおりは、旅の前から「楽しみ」を作り、旅の後も「物語」を残す道具です。
ある家族の話、と書きましたが、似たような瞬間は、どの家族にもきっとあります。子どもがはじめて海を見た日、はじめて新幹線に乗った日、はじめて雪に触れた日——その瞬間を、家族の手元に残す方法を、今年の夏は試してみませんか。
AIで叩き台を5分、家族で25分。それだけで、家族の時間が少し変わります。
Triplogue は、家族向けの旅のしおりをAIで作るアプリとして、2026年7月後半末に正式公開予定です。先行登録の方には、「家族旅行モデルしおり」テンプレートをプレゼントしています。
良い旅を、家族で。
